◎体罰に関する声明文~犬の訓練を考える

昨日、友人の獣医さんと話をする機会があり、日本獣医動物行動研究会「体罰に関する声明文」とNHK「プロフェッショナル 犬の訓練士 中村信哉」について意見を交わしたところ、後に自分の感想やコメントを書きますが、意見はほぼ同じだったのでほっとしました。

 

       出典:日本獣医動物行動研究会「体罰に関する声明文」

 

日本獣医動物行動研究会の3月1日「体罰に関する声明文」の、趣旨としては飼い主、訓練士、獣医師など動物にかかわる人が、家庭動物のしつけや行動修正のために「体罰」を用いること、またこれを推奨する行為に反対するとの立場です。

 

私も基本的には全く同じ立場です。体罰がよくないことはよく理解していますし、自分も体罰を受けたことは何度もありますから。

 

日本獣医動物行動研究会の公式HPの内容から気になったところを引用してみます。

 

★体罰がなぜいけないか?

 

1. 体罰は継続によって強度が増してしまう傾向があり、最終的に心身の障害を通り越して 動物の生命を奪う危険性があります。

 

2. 動物は体罰を与える人、近くに存在する他者・動物・物などに対して強い恐怖心を抱く ようになることがあります。

 

3. 動物は体罰を避けるために攻撃行動(先制攻撃)を示すことがあります。

 

4. 恐怖・不安などの情動が関与する問題行動の抑制に体罰を用いると、問題行動が悪化 することがあります。

 

5. 体罰を攻撃行動の抑制に用いると、逃げる、唸る、吠えるなど咬む前に示すはずの行動 が消失し、突然飛びついて激しく咬みつくなどといった避けられない深刻な攻撃行動を 示すようになる可能性があります。

 

6. 体罰による問題行動の抑制効果は、一時的で継続する可能性が低く、問題行動がのちに 再発してしまうことがあります。

 

7. 体罰による問題行動の抑制効果は、体罰を与えた人に限定されがちで他者に波及しない ことがあり、体罰を与える人が存在しない状況下では効果がみられないことがあります。

 

8. 体罰は、動物に何を行えばよいかという学習をさせることはできず、動物が葛藤を生じ ることにより他の問題行動を引き起こしてしまう原因となることがあります。 動物の気質によっては、自発行動を全く示さない「学習性無力」の状態を引き起こす原 因となることもあります。

 

※問題行動とは、飼い主またはその動物と関わる人たちが問題と感じる行動、あるいは人間社会と協 調できない行動と定義します。

 

以上引用終わり

 

 

次に問題動物の問題行動でお困りの飼い主さんには次のことを推奨します (以下引用)

 

問題行動は病気や怪我などの医学的問題から生じることがあります。また、医学的問題が 治癒した後で当時の不快感や痛みの記憶がもととなって問題行動が生じることもあります。 したがって少しでも行動上の問題を感じたら、できるたけ早いうちに、動物病院に相談する ことが大切です。

 

多くの病気や怪我において早期発見・治療が重要なのと同じように、問題行動も早期に発 見・対応することにより、悪化を阻止し、望ましい行動へと改善しやすくなります。逆に対 応が遅れたり自己判断で不適切な対応をした場合には、より深刻な問題行動へと発展する、 別の問題行動を併発する、改善が困難になるなど、様々な望ましくない事態が発生します。

 

問題行動が複雑または深刻な場合は、診察や治療を担当した獣医師から行動診療を専門と する獣医師を紹介されるかもしれません。この場合もなるべく早く紹介された専門獣医師の 行動診療を受けることをお勧めします。直接、行動診療を受診されたい場合は、日本獣医動 物行動研究会のホームページのリスト(http://vbm.jp/syokai)を参考にしてください。 

 

以上引用終わり

 

体罰に関する声明文を読んでみた感想はまず、動物に限らず基本的に体罰は悪いことは誰でもわかっていますので、あらためて声明文を読んでみてこれと言ったサプライズはなく、結局のところ体罰に関する一般論が書かれているのだと感じました。

 

ちなみに、この声明文は「NHKプロフェッショナル 犬の訓練士 中村信哉」さんのこととは無関係ですよね?

 

NHK「プロフェッショナル 犬の訓練士 中村信哉」番組の内容をあらためて整理してみます。

中村さんのところに連れてこられる犬は極めて特殊な事情があるからです。

 

1.人に噛みついて大怪我をさせることを繰り返す犬で、直らなければ即、殺処分になる運命の犬であること。

 

2.中村さん以外の人の訓練を受けたが直らず、問題行動を早期段階で直せなかった犬であること。(飼い主や前訓練士の訓練方法に誤りがあったものと思われると中村さんは語っていました。)

  

3.中村さんがしつけた犬は飼い主に戻してからも再発率が極めて低いという統計的結果があること。

 

4.中村さんは特殊な訓練技能の持ち主であり他の人はまねをしない様に番組で警告しており、体罰は推奨していないこと。

 

5.クライアントの飼い主が中村さんの指導を望んでおり、要望どおりの犬に戻してクライアントの希望を達成していること。

 

6.中村さんは犬に怪我や苦痛を与えないように最大限の配慮をした指導方法を独自に考えて工夫していること。

 

7.中村さん自身も基本的に体罰を望んでいないこと。

 

8.中村さんの指導を受けた犬、番組の中でまめ蔵が中村さんの訓練後におびえて怖がっている様子は見られないこと。

 (番組で取り上げた犬まめ蔵以外についてはわかりませんのでリサーチが必要かもしれません)

 

以上のことから中村訓練士が行う犬の指導はクライアントファーストのすばらしい仕事であると言えます。むしろ、現実に目の前で問題行動を直せないために、毎日殺処分される犬やそれに悲しむ飼い主がいて、そんな犬を救える人がいない現実が一番の問題です。

 

訓練についてはまず、トレーナー(訓練士)に相談してくださいではないでしょうか?

 

先天的な原因や病気などもありうるので、獣医師のサポートも合わせて必要になるとは思いますが、トレーナーは犬の訓練のプロであり警察犬、麻薬捜査犬など全てトレーナー(訓練士)がしつけており、獣医師にはとてもまねできない専門性の高い特殊な技能です。

 

殺処分を待つ犬のクライアントの視点から見れば「手段は二の次で一刻も早くとにかく助けてほしい。」が本音だと思います。殺処分になるような凶暴な犬の訓練は、専門知識を持つ中村さんのようなプロのトレーナーに任せるべきですが、現場の実地で噛みつく凶暴な犬を訓練できるスキルがある方がいないことが問題なのです。

 

【課 題】凶暴で噛みつく手におえない犬⇒手遅れ・直らない・病気・飼い主が悪い⇒殺処分⇒この問題をどうするべきか?

【解 決】体罰は悪いことだ⇒私もそう思う(同感)、だったらどうしたらいいのか?⇒????? 

 

私は中村さんの仕事をリスペクトしていますし、同時に日本獣医動物行動研究会の声明文と同様に体罰を否定する立場に変わりはありません。また、中村さんのように体罰的指導をしなくても更生ができて殺処分がなくなる社会を望んでいますが、そのような個人に頼るのではなくて、組織的にサポートできる体制がしっかりと整っていないことが問題なのです。

 

*過去の関連するブログ記事はコチラ NHK「プロフェッショナル 犬の訓練士 中村信哉」